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大阪地方裁判所 昭和34年(ワ)993号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決要旨〕一、信託法第一一条にいう訴訟行為には、訴の提起、遂行のみに限られずすでに係属中の訴訟において信託譲渡をうけた債権をもつてする相殺の主張を抗弁として提出することも含まれる。

二、手形の裏書譲渡が被告に原告に対する反対債権を取得させこれを本訴請求にかかる債権と相殺させ、これによつて被告が得た利得をなんらかの形で被告から取得しようとする意図の下になされたものであるばあいには、信託法第一一条に違反しその効力がない。

〔判決理由〕そこで、以下、被告の相殺の抗弁について判断する。

(一) まず、手形金債権をもつてする相殺の抗弁について。

1 原告が訴外力栄堂印刷所こと山田力にあてて金額二五万円の約束手形(満期昭和三五年二月一〇日、振出地支払地ともに大阪市、支払場所株式会社三和銀行深江支店、振出日昭和三四年一二月一〇日)一通を振出し、被告がその主張の経過で該手形の所持人となつたこと、その後原告の代表者巽政治が原告に代り右手形金の内入として山田に金八万円を支払つたこと、原告が金額八万円の約束手形(満期昭和三五年四月一八日、振出地支払地大阪市、支払場所株式会社三和銀行深江支店、振出日同年二月一〇日)一通を受取人らん白地のまま振出し、右山田に交付し、被告が山田から該手形を右白地のまま裏書譲渡を受けたので受取人らんを山田名義に補充しその所持人となつたこと、被告訴訟代理人が原告訴訟代理人に対しその主張の日右金一七万円と金八万円の右手形金債権をそれぞれ自働債権として相殺の意思表示をしたこと、以上の事実は、当事者間に争いがない。

2 しかるところ、原告は、山田から被告に対する前記約束手形二連の裏書譲渡は、訴訟行為をさせることを主たる目的とする信託行為に該るから無効であると再抗弁するので、この点を考えてみる。山田と被告とのあいだに手形譲渡の実質的な原因関係がなく、前記約束手形二通は本件訴訟係属後被告が本件訴訟において相殺の用に供しこれにより原告の本訴請求を阻止しえたばあい被告から山田に対し対価を支払うという約束のもとに譲渡されたものであることは、当事者間に争いがなく、証人山田力の証言、被告本人(第一回)尋問の結果によれば、つぎの事実が認められる。すなわち「力栄堂印刷所という名称で印刷業を営む訴外山田力は、原告に対し、昭和三五年三月当時、前記二通の約束手形の手形金を含め金二〇〇万円の手形金債権を有していたが、原告が内整理の羽目に陥つたことから、右債権のうち四割分だけの配当を受けるにとどまつていたところ、昭和三六年三月頃、被告とはじめて取引をするようになつたさい、被告から原告とのあいだに本件訴訟が係属していることを聞かされるや、所持している原告振出の手形が訴訟に利用できるものであれば利用してもらい、いくらかでも該手形金の回収をはかりたいとのことで、とりあえず該手形のうち前記二通の約束手形を被告に裏書譲渡し、被告も、また、本件訴訟において、右手形を相殺の用に供することによつて、原告の本訴請求を阻止しえたばあい、これによつて原告に対し金員の支払をまぬがれるのであるから、後日、それ相当の金員をお礼代わりに山田の方に支払うこととした。」という事実が認められる。

右判示事実によると、山田の被告に対する前記約束手形二通の裏書譲渡は、被告をして原告に対する反対債権を取得する途をひらかせ、これをもつて、本件訴訟において、原告の被告に対する本訴請求にかかる売買代金債権と相殺させることによつて後者を消滅させ、これにより、被告において、もともと原告に支払わなければならなかつた右売買代金の支払をまぬがれ、利得することになるので、これをあらためて、なんらかのかたちで被告から取得しようとの意図のもとになされたものというべきであるから、それは、被告をして訴訟において相殺の主張という訴訟行為をなすことを主たる目的としてなした信託行為であると解するのが相当であり、とくにこれを正当化する特別の事情も認められないので、信託法第一一条により、法律上その効力がないものといわなければならない。けだし、信託法第一一条は、元来、他人の権利について訴訟行為をすることは、とくにこれを正当化する事情の存しないかぎり、避くべき事柄であるのに、信託形式を利用することによつて他人の権利を自己の権利として、他人間の法的紛争に介入し、不当な利益を追及するということは、公序良俗に反するというべきであるから、これが防止をはかるため、訴訟行為をなすことを主たる目的としてなした信託行為を禁止し、これを無効としたものと解されるし、右にいう訴訟行為には、訴の提起、遂行のみにかぎられず、すでに係属せる訴訟において、信託譲渡を受けた債権をもつてする相殺の主張を抗弁として提出することも、民事訴訟法第一九九条第二項の趣旨に徴し、含まれるものと解する。

3 そうだとすると、山田の被告に対する約束手形の裏書譲渡は、無効といわなければならないので、この点の原告の再抗弁は理由があり、結局、被告の右約束手形の手形金債権をもつてする相殺の意思表示は、前提を欠くので、その効力を生ずる余地なく、右相殺の主張は、理由がないといわざるをえない。(坂詰幸次郎)

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